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​一般相対性理論を超える重力理論!?

 「重力」はこの宇宙を支配している最も重要な力の1つであり、私達も日々感じている最も身近な力でもあります。宇宙とともに古代ギリシャの頃から扱われているテーマでありながら、未だよく分かっていない点が多く、現在でも盛んに研究されています。

ニュートン重力 と アインシュタイン重力 = 一般相対性理論

  重力の記述に最初に成功したのは、落下するリンゴで有名なアイザック・ニュートンです。17世紀、ニュートンは重力を「質量がある全ての物体が及ぼしあう力 (万有引力) 」として定式化し (ニュートン重力) 、この理論の正しさは落下実験や天体観測によって確かめられました。現在でも地球上の重力や惑星ほどのサイズの天体現象ではニュートン重力で扱われる場合がしばしばあります。

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  しかしその後、観測された水星の近日点移動 (太陽に最も近づく点が移動していく現象) がニュートン重力では説明しきれないことが判明し、物理学者たちを悩ませます。そんな中、20世紀初頭にかの有名なアルバート・アインシュタインが「一般相対性理論」を発表します。これはニュートンの万有引力を拡張し、重力を「 (全ての形態の) エネルギーが引き起こす時空の歪みの表れ」として考えるという画期的なアイデアでした。さらに前述した水星の近日点移動を高い精度で説明し、観測的にも有効性を確かめられました。

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宇宙に残された未解決問題

  アインシュタインの一般相対性理論は、ブラックホールや重力波、重力レンズ効果の存在など非常に多くの物理現象を予言し、それらは実際に観測・実験的に確かめられてきました。一般相対性理論は「 (実験で確かめられた中で) 現在最も正確に重力を記述できる理論である」ということです。しかし、実は宇宙にはこの一般相対性理論をもってしても説明できない現象がまだあります。

  • 暗黒エネルギー(ダークエネルギー)
    いくつかの観測から、現在の宇宙は加速膨張していることが分かっています。しかし、このためには宇宙全体に「負の圧力」をもった物質が満ちている必要があります。このような物質を現在の物理学では説明できないので、暗黒エネルギーと呼んでいます。この暗黒エネルギーの起源は未だ謎に包まれています。

     

  • 暗黒物質(ダークマター)
    銀河の回転速度の観測などから、この宇宙には光をほとんど発さない謎の重力源があることが知られていて、これを暗黒物質と呼んでいます。未知の素粒子や原始ブラックホール、修正重力理論 (後述) など様々な候補が考えられていますが、まだ確かめられていません。

     

  • 量子重力 (重力の量子論)
    特に難しい問いが「 (原子より小さい) ミクロな世界における重力はどのようなものか」というものです。現在の物理学における “オーソドックス” な考え方では、ミクロな世界では物質を構成する粒子と力は量子論に従い、場の量子論で記述されます。実際、この宇宙にある4つの基本的な力 (電磁気力・強い力・弱い力・重力) のうち重力を除く3つは場の量子論でよく記述できることが実験的にも確かめられています (素粒子標準模型) 。

 しかし重力に関しては、一般相対性理論と場の量子論を組み合わせると計算がうまくいかないことが知られています。よってもし重力が量子論に従うならば、ミクロスケールの重力は “一般相対性理論 + 場の量子論” ではなく、未知の理論 (量子重力理論) で記述されると考えられます。この量子重力理論の有力な候補の1つが超弦理論です。

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宇宙膨張速度の観測などから、現在の宇宙は上のような構成になっていると考えられています。

これらは未解決問題の一部で、この他にも宇宙初期にあったとされるインフレーションなど一般相対性理論では説明が難しい現象がいくつか知られています。

アイデア: 修正重力理論

 ここで最初に述べたニュートン重力と一般相対性理論の例を思い出すと、何らかの方法で重力の理論を拡張できれば、これらの未解決問題を解決できるかもしれないという気になります。このアイデアが修正重力理論です。これは、一般相対性理論を何らかの形で拡張することで、重力場の効果として暗黒エネルギー・暗黒物質などの問題を説明する他、量子重力理論のヒントを得ようという試みです。その拡張方法は数多く考えられていて、それに応じて多くのモデルが研究されています。

 「一般相対性理論を超える重力理論が何であるか」「修正重力理論モデルの中で尤もらしいものはどれか」、この問いに答えるには最終的に観測・実験で確かめる他ありません。そこで様々な手段を用いた検証法が試みられています。

  • 重力波観測
    時空のさざなみである重力波は、主にブラックホール, 中性子星など強重力天体が合体する際に生じます。よって重力波を調べることで、強重力にある一般相対性理論からの乖離が分かるかもしれません。

     

  • 宇宙背景放射 (CMB) 観測
    宇宙背景放射は宇宙全体に漂う熱放射のことで、その温度揺らぎから初期宇宙などの情報を得ることができます。これを見ることで、一般相対性理論を超える重力理論が支配的だった年代の物理が分かると考えられています。

     

  • 素粒子実験
    もし一般相対性理論からの乖離が存在するならば、それは素粒子の散乱過程のようなミクロな現象にも顔を出すかもしれません。中性子の散乱・崩壊など様々な物理現象を用いてこのズレの効果が検証されています。

     

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(上) これまでに観測された重力波の例 (画像: LIGO Lab)

(下) Planck衛星によって観測されたCMBのマップ
      (画像: Planck - ESA)

この他にも、近年可能となったブラックホールやその周辺の星の運動を用いた観測的検証など、多角的な観点から重力理論の検証が行われています。また量子重力の観点では、近年発達した量子制御技術を用いた「重力の量子性」に対する検証実験も考えられています。これらの観測・実験により一般相対性理論からのズレや修正重力理論の有効性が確認されれば、アインシュタインの一般相対性理論によってこの宇宙に対する理解が飛躍的に深まったように、新たな重力理論によって重力・この宇宙に対してより広く深い理解を得ることができると期待されます。

監修: 野尻伸一 (KMI教授)

​執筆: 沼尻光太

​イラスト: 南崎梓

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​関連する研究室: 

  • 重力・素粒子的宇宙論(QG)研究室
    上で紹介した修正重力理論や重力の量子論に関する研究のほか、ブラックホールなど強重力下の現象、初期宇宙など様々な重力にまつわるテーマを扱っています

     

  • 宇宙論(C)研究室
    観測データに基づき理論を検証していく「観測的宇宙論」という手法で、CMBなどの観測データを用いて宇宙開闢以来様々なステージにおける宇宙の進化・構造形成について理論的に研究しています

     

  • 宇宙物理学研究室 高エネルギー天文学グループ (Uxg)
    紹介した重力波観測プロジェクトへの参加の他、X線を用いた光学観測など多彩な手段で高エネルギー天体現象の実態に迫る観測的研究を行っています

     

  • 素粒子物性(Φ)研究室
    主に中性子を用いた実験で、素粒子標準模型やそれを超える物理について検証しており、その一環として上で紹介した重力相互作用の検証も行っています

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