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LHC実験の「視力」はどれくらい?

LHC実験は、二つの陽子の衝突を通じて、
陽子の中にある素粒子(クォーク・グルーオン)
どうしの衝突を直接見ることができるほど、高い解像度を持ちます。例えるならば、
「●●の中からこの付箋紙一枚を識別できる
視力を持っている」と言えます。

●●に入るのは次のうちどれでしょうか?

(1) 東京ドーム

(2) 名古屋市

(3) 北海道

A: (3) 北海道 (約8万3千平方メートル)

 スイスとフランスの国境に位置する世界最大の加速器、Large Hadron Collider(通称: LHC)では、超高エネルギー下での物質の反応・振る舞いが研究されています。その中でも最も基本となるプロセスは陽子同士の散乱で、一秒間に20億回もの衝突が起こっています。

 

 しかし、LHC実験で本当に探したいのは陽子よりもさらに小さな素粒子同士の反応です。そのため、陽子を衝突させて終わりではなく、衝突後に測定された粒子の運動量や種類、角度分布の情報を手がかりにして、陽子散乱の中から本当に探索したい反応を探していきます。現状のLHC実験では、陽子散乱に比べてどれくらい起こりにくい反応まで探すことができるのでしょうか。
 

 そもそも、粒子の衝突・反応の起こりやすさはどう表したら良いでしょうか。まずは身近な例から考えてみましょう。例えば、的に向かって野球ボールを投げるときは「当たりやすさ」と言う指標があります。ボールを投げる回数が多いほど的への当たりやすさは増していきます。そして、ボールを同じ回数投げた場合には、的の面積が大きい方が的に当たりやすくなります。

 

野球ボールよりももっと小さい電子や陽子の衝突・反応についても、同様に考えてみましょう。一秒間あたりN個の粒子が、的となる反応相手の粒子に対して垂直に入射する状況を考えます。反応が起こった点から半径 r だけ離れた球状に検出器を設置して、散乱された粒子を測定するとしましょう。このとき、粒子が散乱されて、角度θの方向の検出器に検出される粒子数は、野球ボールの例と同様に、入射される粒子に比例して大きくなります。よって、単位立体角 dΩ あたりの散乱される粒子数は、以下のように表せます。

ここで、比例係数としてσ(θ)を導入しました。この係数の物理的な次元を調べてみると、面積と同じ次元を持つことがわかります。この σ(θ) を、全散乱角θについて積分したものは各反応の「散乱断面積」と呼ばれます。

散乱断面積は、野球ボールよりももっと小さい電子や陽子などの量子論的な反応の起こりやすさを表す量です。(1)の式からわかるように、散乱断面積が大きければ大きいほど散乱される粒子の数が大きい、すなわち、反応が起こりやすく実験で探索しやすくなります。よって、散乱断面積は、先ほどの例として挙げた的の面積と対応しています。

fig_02.png

参考: ATLAS 実験で測定されている散乱断面積

 上に掲載したのは LHC 実験の測定器、ATLAS 実験で測定されている散乱断面積の一覧表です。横軸は散乱断面積で、単位は 1 pb = 10の12乗 bです。一番基本となる陽子散乱を一番上に、様々な反応の散乱断面積が示されており、下に行くほど散乱断面積がどんどん小さくなっていきます。
LHC_eye.jpeg
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